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広島地方裁判所呉支部 昭和39年(タ)2号 判決 1964年6月29日

原告 荒谷政子

原告 荒谷春子

原告 荒谷ナツミ

右三名法定代理人親権者母 荒谷ツヤコ

右訴訟代理人弁護士 原田香留夫

広島地方検察庁呉支部検察官

被告 山口高明

主文

原告等を大韓民国慶尚北道尚州郡化西面池山里四七五番地、亡柳時翼の子と認知する。

訴訟費用は国庫の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、

その請求原因として

原告等はいずれも訴外亡柳時翼を父、訴外荒谷ツヤコを母として出生したものである。すなわち

原告等の母荒谷ツヤコ(大正九年三月四日生)は、日本の国籍を有するものであるが、大韓民国の国籍を有する訴外柳時翼(一九二二年一二月九日生)と昭和二五年頃、呉市翠町四二番地において、内縁の夫婦関係を結んで同棲し、翌二六年に同市浜田町一二丁目一〇番地に転居し、その後も時翼と同棲生活を続けてお好み焼屋を営み、同人との間に、同所において、昭和二六年一一月一六日、原告政子を、同二八年三月一一日に原告春子を、同二九年四月二八日、原告ナツミを出産したが、いずれも婚外子として同女の戸籍に入れた。

ツヤコはかねて時翼に対し正式に婚姻入籍してくれるよう懇請していたが、同人は本籍地において、一九五五年に他の女性と婚姻入籍していることが判明し、その手続ができないでいるうちに、昭和三八年一月二四日、前記住所において、狭心症のため急死した

以上の通りで原告等はいずれも右柳時翼の子であることに相違ないので、原告等が同人の子であることの認知を求める

と述べた。

被告は「原告等の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、原告等主張の請求原因事実はすべて知らないと述べた。

証拠として≪省略≫

理由

≪証拠省略≫を綜合すると、原告等主張の請求原因事実を全部認めるに十分であり、他に右認定を左右すべき資料はない。

ところで法例第一八条によると子の認知の要件は、その父に関しては認知の当時、父の属する国の法律によつて定め、その子に関しては子の属する国の法律によつて定めることになつているから、本件では父、柳時翼については、死亡当時の本国である大韓民国の法律により、原告については生来の本国である日本国民法に拠るべきところ、これに関して、韓国民法はいわゆる生前認知を規定した第八二七条ないし第八三六条があるのみで、死後の認知は一切許していないと解されるが、親子としての自然の血のつながりが証明されるのに、親が既に死亡したという一事によつて法律上の親子関係を全面的に否定するのは、条理にもとるばかりでなく、わが国の身分制度における公序に反することが明らかであるから、法例第三〇条に則り、日本国民法第七八七条を一方的に適用すべきものである。

以上の次第で、原告等がいずれも前記訴外柳時翼の事実上の子であること、同訴外人が死亡したのは昭和三八年一月二四日であることを認め得る本件においては、右訴外人の子であることの認知を求める原告等の本訴請求はいずれも理由があるので、正当として、これを認容し、なお訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条人事訴訟法第一七条第三二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 池田章 裁判官 滝口功 一之瀬健)

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